
2025年、日本の医薬業界にとって歴史的な快挙が達成されました。大阪大学特任教授・坂口志文氏が、制御性T細胞(Treg)の発見によりノーベル生理学・医学賞を受賞したのです。この受賞は、免疫学の根幹を揺るがす発見であり、自己免疫疾患やがん治療に新たな可能性をもたらすものです。
この栄誉の背景には、坂口教授と中外製薬による長年の共同研究があります。中外製薬は、スイスのメガファーマ・ロシュ(メルク)傘下にありながらも、独立性を保ちつつ日本発の創薬を続けてきました。制御性T細胞のように、すぐにビジネス化が難しい基礎研究にも投資を惜しまない姿勢は、まさに「研究開発型企業」の理想形です。
中外製薬の研究開発力とグローバル戦略
中外製薬は、2025年現在、がん免疫領域において約10本のパイプラインを保有し、そのうち3本が臨床第2相試験に進んでいます。研究開発費は年間約1,500億円に達し、売上高の約20%をR&Dに投資する姿勢は、国内企業の中でも突出しています。
図表1:日本製薬企業の研究開発費ランキング(2025年)
| 企業名 | 研究開発費(億円) | 売上高に占める割合 | 主な研究領域 |
|---|---|---|---|
| 中外製薬 | 1,500 | 約20% | がん免疫、希少疾患 |
| 武田薬品工業 | 4,200 | 約15% | 消化器、神経、希少疾患 |
| 第一三共 | 1,200 | 約18% | がん、循環器 |
| 塩野義製薬 | 800 | 約14% | 感染症、ワクチン |
| エーザイ | 1,000 | 約17% | 神経、アルツハイマー |
ライセンスイン・アウトの潮流とアジア連携
現在、世界の創薬はライセンスイン・アウトを軸に、バイオベンチャーやアカデミアとの連携によって支えられています。特に中国や韓国では、革新的なバイオ技術を持つスタートアップが台頭し、日本企業もこれらの企業とのライセンス契約を通じて新薬開発を加速させています。
図表2:ライセンスイン・アウトの地域別動向(2024年)
| 地域 | ライセンスイン件数 | ライセンスアウト件数 | 主な提携先国・企業例 |
|---|---|---|---|
| 中国 | 45 | 12 | BeiGene、Innovent |
| 韓国 | 38 | 9 | Samsung Biologics、Hanmi |
| 米国 | 52 | 18 | Moderna、Amgen |
| 欧州 | 30 | 15 | Roche、Sanofi |
| 日本(発信) | — | 42 | 中外製薬、武田薬品、第一三共 |
制御性T細胞の創薬応用と社会的意義
制御性T細胞は、免疫の暴走を抑える役割を持ち、自己免疫疾患やがん治療に応用可能です。中外製薬はこの研究を基に、複数の臨床試験を進めています。
図表3:制御性T細胞(Treg)の創薬応用領域
| 疾患領域 | 応用例 | 開発段階(2025年) |
|---|---|---|
| 自己免疫疾患 | 関節リウマチ、1型糖尿病などの免疫抑制 | 第2相臨床試験 |
| がん免疫療法 | 免疫チェックポイントとの併用 | 前臨床〜第1相 |
| 移植医療 | 拒絶反応の抑制 | 第1相臨床試験 |
| 希少疾患 | 遺伝性免疫疾患への応用 | 研究段階 |
医薬産業が日本経済を再生する鍵に
かつて製造業や自動車産業に依存していた日本経済は、バブル崩壊以降「失われた30年」と呼ばれる停滞期を経験しました。しかし、医療・医薬・先端研究開発といった知識集約型産業こそが、今後の持続的な成長の鍵を握っています。
図表4:日本の医薬品市場規模推移(2015〜2025年)
| 年 | 市場規模(兆円) |
|---|---|
| 2015年 | 9.2 |
| 2017年 | 9.5 |
| 2019年 | 10.0 |
| 2021年 | 10.3 |
| 2023年 | 10.7 |
| 2025年 | 11.0(予測) |
日本創薬の未来に向けた提言
今後、日本の製薬企業がグローバル市場で存在感を示すためには、以下の3つの戦略が重要です。
- 基礎研究への継続的投資
短期的な収益にとらわれず、長期的視点で研究開発を支援する体制の構築が不可欠です。 - アカデミアとの連携強化
大学や研究機関との共同研究を通じて、創薬の種を早期に発見・育成する仕組みが求められます。 - グローバル資本との戦略的提携
終わりに──誇りと希望を胸に
今回のノーベル賞受賞は、日本人として誇らしい出来事であると同時に、未来への希望でもあります。医療・医薬という分野が、日本の経済と社会の再生をけん引する力を持っていることを、私たちは改めて認識すべきです。中外製薬のような企業が増え、地道な研究が報われる社会こそが、次の30年を輝かしいものにする鍵だと私は思っております。