
昨日、2025年9月26日、米国大統領ドナルド・トランプ氏は自身のSNS「Truth Social」にて、次のような投稿を行いました。
“Starting October 1st, 2025, we will be imposing a 100% Tariff on any branded or patented Pharmaceutical Product, unless a Company IS BUILDING their Pharmaceutical Manufacturing Plant in America. ‘IS BUILDING’ will be defined as, ‘breaking ground’ and/or ‘under construction.’”
この発言は、米国内に製造拠点を持たない製薬会社に対し、ブランド薬・特許薬に100%の関税を課すという強硬な通商政策の一環です。対象はジェネリック医薬品を除く、主に高価格帯の医薬品。米国民の薬価負担を軽減するという名目のもと、製薬業界に対して「米国で作れ、さもなくば倍の関税を払え」と迫る内容です。
トランプ氏の真意:薬価と国力の天秤
この政策の背景には、米国が世界最大の医薬品市場であること、そしてその市場が他国の製薬会社にとって「利益の源泉」であるという認識があります。トランプ氏は、米国が高価な薬を買い支え、他国が安価に薬を享受している現状を「不公平」と捉えています。
また、製薬業界が米国に研究開発拠点を置き、世界中から優秀な人材を集めていることも、トランプ氏の視点では「米国の負担」と映っているようです。彼の政策は、他国にコストを転嫁し、米国民に利益を還元するという構図を描いています。
しかし、こうした方針は、米国の国力を支えてきた「開かれた市場」「多様な人材」「国際協調」という柱を揺るがす可能性があります。
◇製薬業界への影響:数字で見るインパクト
この政策が実施されれば、以下のような具体的な影響が予測されます。
1. 海外製薬企業への打撃
米国が輸入するブランド薬の主要供給国は、アイルランド($12.3B)、スイス($12.1B)、ドイツ($11.6B)、インド($9.2B)など。これらの国の製薬企業は、米国市場での価格競争力を失いかねません。
- ノバルティス(スイス):米国売上約$20Bのうち、ブランド薬が$12B。関税により最大$6Bの売上減少と推定され、コスト増加は$1.5B以上。
- ロシュ(スイス):米国売上$18Bのうち、抗がん剤「アバスチン」「ヘラセプチン」などが主力。関税で価格が倍になれば、保険償還の対象外となる可能性も。
- バイエル(ドイツ):糖尿病薬「ジャルディアンス」などが米国で好調。関税により年間$2Bの売上減少が予測される。
2. 米国企業の対応
- イーライリリー:直近で$6.5Bのヒューストン新工場建設を発表。これにより関税回避が可能。
- GSK(英):米国に$30Bの投資を表明。ペンシルベニア州に新工場建設中。
- ファイザー:既存の米国内製造拠点を拡張中。関税回避のための追加投資が必要。
3. インド企業の立場
インドはジェネリック医薬品の供給国であり、関税の対象外とされています。しかし、複雑なバイオシミラーや特許切れ直後の製品はグレーゾーンにあり、今後の規制次第では影響を受ける可能性があります。
米国の製薬業界は、世界中のアンメットメディカルニーズに応える創薬を牽引してきました。希少疾患や難治性疾患への対応は、米国の高い薬価と研究投資、そして世界中から集まる優秀な人材によって支えられています。
この構造は、米国が「世界の創薬エンジン」として機能するための前提条件です。関税によって他国に負担を強いる一方で、ビザ規制などで人材流入を制限すれば、米国の創薬力そのものが弱体化する可能性があります。
その結果、米国の国力は低下し、代わりに中国・ロシア・北朝鮮といった独裁国家が台頭する構図が生まれかねません。米国が同盟国の信頼を失い、世界の不安定化を招くという懸念は、現実味を帯びています。
トランプ氏の政策は、短期的には「米国民の利益」を強調するものですが、長期的には「米国の孤立化」と「国際秩序の崩壊」を招く可能性があります。関税による価格上昇は、米国民の医療費負担を増やし、医薬品アクセスを阻害するリスクもあります。
さらに、世界情勢の不安定化によって、トランプ氏自身が「恐怖と不安」を政治的資源として活用し、権力の座にとどまろうとする構図も見えてきます。
◇薬価と国力のバランスをどう取るか?
医薬品の価格は、単なる経済問題ではなく、国の安全保障、国民の健康、そして国際的な信頼に関わる問題です。トランプ氏の政策は、米国の製薬業界に変革を迫る一方で、世界の医療体制にも大きな影響を与えます。
米国が「創薬の中心」であり続けるためには、開かれた市場と多様な人材、そして国際協調が不可欠です。関税という「力の政策」が、果たしてその未来を守るのか。それとも、破壊するのか。今、私たちはその岐路に立っています。