
こちらがご依頼の内容をもとに構成した、約4000文字の記事です。タイトルとともに、製薬業界のトレンドを数字とともにわかりやすく、フレンドリーな語り口でまとめました。
肥満症薬で世界を席巻するノボノルディスクとイーライリリー──2030年、製薬業界の頂点に立つのは?
デンマークのノボノルディスクと米国のイーライリリー。この2社が開発・販売するGLP-1受容体作動薬は、肥満症治療の新たなスタンダードとして世界中で爆発的な人気を誇っています。筆者自身もノボ社の経口GLP-1薬「リベルサス」にお世話になった経験があり、その効果と利便性には感銘を受けました。
かつて筆者が在籍していたフランスのサノフィでは、2型糖尿病治療薬の拡販に従事していましたが、当時はインスリン注射の適応拡大に注力しており、肥満症市場には積極的に参入していない印象でした。マーケティングとセールスのプロとしては、なぜこの成長市場に踏み込まないのかと歯がゆい思いを抱いたものです。
そんな中、ノボとリリーは見事に時流を捉え、戦略的な製品ポートフォリオを構築。肥満症と糖尿病という巨大市場で圧倒的な存在感を示しています。両社の躍進は、製薬業界の構造そのものを変えるインパクトを持っていると言えるでしょう。
◇2030年、売上高で世界トップへ
Evaluate Pharmaの最新予測によると、2030年にはイーライリリーが世界最大の処方薬メーカーとなり、売上高は1,130億ドル(約17兆円)に達する見込みです。ノボノルディスクもそれに続き、840億ドル(約12.6兆円)と、現在の製薬業界トップ企業を大きく上回る成長を遂げると予測されています。
この成長を牽引するのが、両社のGLP-1薬です。2030年にはGLP-1関連薬が全処方薬売上の約9%を占めるとされており、まさに「カテゴリーを超えた存在」となっています。
イーライリリーの「モウンジャロ」は2030年に360億ドルの売上で世界一の薬剤となる見込みで、肥満症薬「ゼップバウンド」も255億ドルで第3位にランクインすると予測されています。一方、ノボノルディスクの「オゼンピック」は244億ドル、「ウゴービ」は181億ドル、次世代肥満症薬「カグリセマ」は152億ドルと、いずれもトップ10入りを果たす見通しです。
◇GLP-1薬の市場規模は驚異の4700億ドルへ
I-MAKのレポートによれば、ノボとリリーの5つのGLP-1薬(オゼンピック、ウゴービ、リベルサス、ゼップバウンド、モウンジャロ)は、2030年までに累計4,700億ドル(約70兆円)もの売上を生み出すと推定されています。これは、過去20年間のベストセラー薬を凌駕する規模であり、GLP-1薬がいかに市場を席巻しているかを物語っています。
ゼップバウンドは発売から5年間で660億ドルを稼ぐとされており、これはプロザック(40億ドル)やバイアグラ(70億ドル)を大きく上回る数字です。GLP-1薬は、もはや「肥満症治療薬」という枠を超え、心血管疾患や腎疾患など多領域への適応拡大も進んでいます。
◇ノボノルディスクに訪れた試練──急成長の代償
こうした華々しい成長の裏で、ノボノルディスクは大きな試練にも直面しています。2021年に「ウゴービ」の成功で欧州最大の企業となったノボですが、米国市場での激しい競争や後発品の登場により、2024年6月のピークから、今年2025年8月までの時価総額の下落幅は4,000億ドル以上に達しています。
トムソン・ロイター社の記事によると、デンマークのカルンボーでは、ノボの工場建設ラッシュにより街が活気づいていますが、同時に5,000人規模の国内人員削減が予定されており、地元経済への影響が懸念されているらしく、副市長のティナ・ベック=ニルソン氏は「建設が終わった後、これらの家がゴーストハウスにならないか心配です」と語っているそうです。
ノボはグローバルで9,000人の人員削減を計画しており、その半数以上がデンマーク国内です。新CEOのもと、事業構造の再編と意思決定の迅速化を進め、糖尿病と肥満症領域へのリソース集中を図るとしています。
◇製薬業界の未来を握る2社の戦略
ノボとリリーは、特許戦略でも抜かりありません。ノボはセマグルチド関連で320件の特許申請を行い、154件が承認済み。主力成分の特許は2031年まで延長されており、後発品の参入を阻む「特許の壁」を築いています。
一方、リリーは経口GLP-1薬「オルフォグリプロン」や三重作用薬「レタルトルチド」など、次世代薬の開発を加速。2030年にはそれぞれ127億ドル、56億ドルの売上が見込まれており、GLP-1市場の覇権争いはさらに激化するでしょう。
◇おわりに──肥満症薬は社会構造すら変える
肥満症薬の進化は、単なる医薬品の枠を超え、社会構造や経済にまで影響を与えています。ノボとリリーの戦略は、製薬業界の未来を示す羅針盤であり、マーケティングとイノベーションの融合がいかに重要かを教えてくれます。
筆者としては、かつてのサノフィ時代にこの波に乗れなかった悔しさを感じつつも、今は一消費者として、そして業界ウォッチャーとして、両社の動向に敬意と羨望の眼差しを向けています。2030年、製薬業界の頂点に立つのは誰か──その答えは、GLP-1薬の進化とともに明らかになるでしょう。